電流−電位測定に基づく化学分析法の原理と応用
電気化学測定法には、電流を測定する方法(アンペロメトリー、ボルタンメトリーなど)、電位を測定する方法(ポテンショメトリーなど)をはじめとする多くの測定原理が存在しており、目的・用途に応じて使い分けられている。 本稿では、目にする機会が多いであろう3つのボルタンメトリーを抽出して解説する。
1. サイクリックボルタンメトリー(CV 法)
静止溶液中に電極を配し、電位をくり返し掃そう引いんした際に流れる電流を測定して得られる電流−電位曲線(サイクリックボルタモグラム、CV)を解析し、酸化還元特性などを調べる測定法である。
簡単・迅速に酸化還元反応を把握できることから、溶液の酸化還元特性調査はもとより、新たな電極材の評価への応用なども含め、広く活用されている。
測定系を図1に示す。電位を制御しながら電流を測定できるポテンショスタット装置に作用極(Working Electrode)・参照電極(ReferenceElectrode)・対極(Counter Electrode)を接続し、支持電解質を含んだ溶液に3電極を浸し、一定の掃引速度で電位を増減させて電流値を測定する方法である。
作用極は、対象物質との電子授受を行う。白金、金、グラッシーカーボンなどの電極材が使用され、電位窓が広いナノカーボンなどの新電極材も注目されている。
参照電極は、安定な電極電位を呈する銀/塩化銀電極やカロメル電極が使用されてきた。毒性問題からカロメル電極の使用が減り、現在では銀/塩化銀電極が主流となっている。
対極は、作用極で発生するのと同じ電流値を系図1にフィードバックすることを目的とする電極である。性能確保のために作用極より十分に大きな電極面積とするのが一般的であり、20 倍以上の面積比も普通である。
典型的なサイクリックボルタモグラムを図2に示す。電位を負側へ掃引すると還元波が生じ、電位を正側へ掃引すると酸化波が生じる。掃引速度が速すぎない必要があるが、電位と電流から酸化還元系の標準電位を知ることができる。電位情報から定性分析が、電流情報から定量分析が可能である。電気化学的な可逆性・不可逆性、酸化・還元種の安定性、化学反応速度、電位窓など、様々な情報が得られる方法であるが、電極、電位掃引速度、溶媒などに影響されやすい方法でもあり、細心の注意が不可欠な測定法でもある。ほかの電気化学測定法との併用が望ましいケースも少なくない測定法でもある。
図1 測定系/サイクリックボルタモグラム
2. ポーラログラフィー
ポーラログラフィーは、ボルタンメトリーの初期に考案された測定法であり、その功績によって、ヘイロフスキー(開発者)は1959 年にノーベル化学賞を受賞している。
CV 法と類似したシステムだが、滴下水銀電極を作用極に使用している点が大きく違っている。 滴下水銀であるために継続的にフレッシュな電極表面を維持することが可能であり、良好な測定が期待できることから、長きにわたって活用されてきた測定法である。
電流-電位曲線(ポーラログラム)で得られる半波電位から定性分析が可能であり、拡散電流から定量分析が可能である。ポーラログラム解析にて電極反応機構や電極界面現象を知ることもでき、これらの点でもCV 法と類似している。
しかし、優れた固定電極や他の測定法の出現、水銀フリー化の推進などの影響を受けて、最近では使用されることが少なくなってきた測定法でもある。
図2 サイクリックボルタモグラム(イメージ)
3.ストリッピングボルタンメトリー(SV法)
ストリッピングボルタンメトリーは、作用極上に対象成分を電解濃縮した後、電位を掃引して析出物が再溶解する際の電流を測定し、電流-電位曲線(ボルタモグラム)から定性・定量分析を行う測定法である。濃縮工程を前半に含む2段階分析法であり、高感度なために微量分析に適しており、国内外の多くの現場で金属分析計などとして利用されている。
測定系は、CV 法と同様な構成である。作用極として水銀や水銀化合物が用いられていたが、水銀毒性の問題から、ナノカーボンや貴金属などの代替電極材の検討も進められている。
ナノカーボン薄膜を作用極として用い、Pb2+を測定したボルタモグラムを図3に示した。排水測定などでの必要感度に到達しており、干渉成分への対策などにも目処が立ってきた。水銀フリーを目指した、ナノカーボンを含む代替電極材への移行が進行中の測定法である。
図3 Pb2+ 測定結果(作用極:ナノカーボン)
八谷宏光
(東亜ディーケーケー株式会社)
2017年5月19日 公開