分析機器情報

熱重量測定装置の原理と応用

1. 概要

熱分析の代表的手法の一つである熱重量測定 (TG)は試料を一定の速度で加熱・冷却したとき、あるいは一定の温度で保持したときの重量変化を測定する手法で蒸発、分解、酸化、還元、吸着等の重量変 化を伴う化学的、物理的変化の測定に応用されます。これらを測定することにより、試料の水分、溶媒、あるいは含有成分の定量や、熱分解機構の解析、熱安定 性、反応性などの評価を行うことが可能となります。本編では熱重量測定の原理と測定例について解説します。

2.TG の原理

TG には天秤機構部と試料部の位置関係の違いで上皿式、水平式、吊り下げ式などの種類があります。図1では吊り下げ式TG の原理を示しました。この方式は高感度測定に有利な構造とされています。天秤ビームの一端から加熱炉内に吊り下げられた試料が、制御プログラムに従って加 熱され重量変化が生じると天秤ビームが傾きます。これを光電変換素子が検出、フィードバックコイルに電流が流れ電磁力を発生させることにより天秤ビームを 水平に戻します。このときの電流値を重量変化として記録します。試料温度としては試料近傍に設定された熱電対の信号が記録されます。

測定装置は他に、加熱制御及びデータ処理のためのPC、測定中の雰囲気ガス流量をコントロールするための流量計などから構成されます。

図1 TG の原理

図1 TG の原理

3.TG の測定例

(1)シュウ酸カルシウムの分解

無機物の例としてシュウ酸カルシウム(CaC2O4・H2O)を測定した結果を示します。加熱に従って3段階の重量減少が観察されますが、それぞれは次の反応に対応します。

  • ① CaC2O4・H2O → CaC2O4 + H2O ↑
  • ② CaC2O4 → CaCO3 + CO ↑
  • ③ CaCO3 → CaO + CO2

TG 曲線からはそれぞれの反応が生ずる温度を求めることができます。例えば②の反応は400℃~550℃にわたって生じていることが読み取れます。さらに、そ れぞれの発生ガスによる重量減少の理論値は① 12.33% ② 19.17% ③ 30.12% ですが、理論値と図中の測定により得られた重量減少率が良い一致を示し、TG は高い定量性を有していることがわかります。

図2 シュウ酸カルシウムの分解

図2 シュウ酸カルシウムの分解

(2)SBR の分解とカーボンブラックの定量

ゴ ムには主として機械的強度を高める目的でカーボンブラックが添加されます。TG では雰囲気をコントロールしながら加熱することによってゴム中のカーボンブラックを定量することが可能です。図3に測定結果を示します。装置に試料をセッ ト後、窒素で十分に置換し600℃まで加熱するとTG 曲線でSBR の熱分解による重量減少が観察されます。SBR が完全に分解した後、雰囲気を空気に切り替えると、今度はカーボンブラックの燃焼による重量減少が観察されます。カーボンブラックの定量値は28.1% となりました。

図3 SBR 中のカーボンブラックの定量

図3 SBR 中のカーボンブラックの定量

(3)エポキシ樹脂中の石英の定量

エ ポキシ樹脂中に補強材として添加される石英の定量を行った結果を示します。エポキシ樹脂を空気中で加熱すると300℃付近より分解が始まり、550℃付近 で終了するのが観察されます。この間にエポキシ樹脂は完全に分解するため、後には石英による残渣が生じます。従って、元の試料量からエポキシ樹脂の分解量 を引いたものが石英の添加量となります(100 − 33.8 = 66.2%)。このように一般的に有機物中の無機物の添加量はTG の空気中の加熱により求めることが可能です(無機物が加熱中に酸化等変化しない場合)。

図4 エポキシ樹脂中の石英の定量

図4 エポキシ樹脂中の石英の定量

4.TG 測定上の注意

TG 測定中は加熱炉内で浮力と対流の変化によるベースラインのドリフトが生じ、試料に重量変化がなくても見かけ上、重量信号が変化するため、通常、試料測定と 同条件でブランク測定を行い補正します。最新の装置では試料の測定曲線からブランク曲線を差し引く機能を有したものが多く、簡単に補正することが可能で す。他にTG の測定結果に影響を及ぼす因子として加熱速度、試料量、雰囲気、セルの種類、試料の粒度、充填状態等があり、有効なデータを得るためにはこれらを検討し最 適な条件を選択する必要があります。

以上、TG の原理、応用の一例をご紹介しました。TG は高分子、金属、セラミック、医薬、食品等、広範な分野で他の熱分析手法(DSC、TMA 等)とともに品質管理、研究開発の場面で材料の熱的特性の評価に応用されています。その特徴を充分把握いただき、今後もさまざまな分野で有効に活用される ことを期待します。

太田 充
(株式会社島津製作所)

2015年7月29日 公開