分析機器情報

高速液体クロマトグラフの原理と応用

概要

 高速液体クロマトグラフ(HPLC)は、「液体の移動相をポンプなどによって加圧してカラムを通過させ、分析種を固定相及び移動相との相互作用(吸着、分配、イオン交換、サイズ排除など)の差を利用して高性能に分離して検出する」(JIS K0124:2011 高速液体クロマトグラフィー通則に記載)分析方法です。
 HPLCは、ガスクロマトグラフ(GC)と同じ分離分析装置ですが、溶媒に溶解できる物質ならそのまま測定ができ、分析目的以外に天然物成分や化学合成品などの分離精製するための分取装置としても用いられています。
 本編では、HPLCの装置構成,分離や検出の基本原理などについて解説し、医薬、食品、環境分野における応用例と化学分野で広く用いられるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を紹介します。

1.はじめに

 高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography)とは、『JIS K 0124:2011 高速液体クロマトグラフィー通則』によると「液体の移動相をポンプなどによって加圧してカラムを通過させ、分析種を固定相及び移動相との相互作用(吸着、分配、イオン交換、サイズ排除など)の差を利用して高性能に分離して検出する方法」、また高速液体クロマトグラフ(High Performance Liquid Chromatograph)とは「高速液体クロマトグラフィーを行うための装置」と定義されており、いずれも「HPLC」と略されます。HPLC はガスクロマトグラフ(GC)と同じく分離分析装置ですが、分析目的以外にも天然物成分や化学合成品などを分離精製するための分取装置としても用いられています。

2.高速液体クロマトグラフの原理

 クロマトグラフィーとは、物質が固定相とこれに接して流れる移動相との親和力(相互作用)の違いから一定の比率で分布し、その比率が物質によって異なることを利用して各物質を分離する方法で、移動相が液体の場合が液体クロマトグラフィーです。図1にHPLC の基本構成を示します。

HPLCの基本構成

図1 HPLCの基本構成

 HPLC で用いる移動相は溶離液とも呼び、分離に重要な役割を果たします。移動相には、水やこれにいろいろな塩類を添加した水溶液、メタノール、アセトニトリル、ヘキサンなどの有機溶媒を単独であるいは混合して用います。移動相は小型パルスモータにより駆動する送液ポンプにより一定の流量(例えば1mL/min)で成分分離を行うカラムに送られます。送液ポンプの流量範囲は、分析用で~10mL/min、分取用で~150mL/min 程度で、高い流量安定性や耐圧性が求められます。従来、分析用ポンプの耐圧は40MPa、通常用いる流量は0.5~2mL/min 程度でしたが、最近では以下に述べる充填剤の微細化やカラムのダウンサイジングの進展により、100MPa 以上の耐圧性能や低流量(μL/min やそれ以下)での送液安定性をもったポンプも開発されています。
 カラムには、分析用で粒子径2~5μm、分取用で5~30μm 程度のシリカゲルや合成樹脂などでできた充填剤を、分析用で内径2~8mm、分取用で内径10~50 mm 程度の主としてステンレス製クロマトグラフィー管に充填したものを用います。最近では、粒子径2μm 以下という高性能充填剤が開発され、従来の1/5~1/10という短時間で高分離が得られるようになってきました。これを超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)と呼びます。一方、カラムサイズから見ると、内径を1~2mm と細くしたミクロあるいはセミミクロカラムと呼ばれるものも普及してきており、内径0.3 mm程度のキャピラリーカラムも使用されています。これらカラムのダウンサイジングは、試料の微量化、質量分析計との結合(LC-MS)、溶媒消費量の低減などの点で注目されています。充填剤は各相互作用に応じて、分析種に適したものを選択します。固定相は充填剤自体であったり、充填剤表面に結合した種々の官能基であったりします。現在主流となっているのは、シリカゲル表面にオクタデシル基(いわゆるODSカラム)などの炭化水素系官能基を固定相として化学結合させた充填剤で、この種の充填剤を用いた逆相法(分配の一種)が最も広く使われます。なお、カラムオーブンはHPLCにおいてはGCのように必須ではありませんが、分析精度や分離効率向上のために用います。 分析する試料は適切な溶媒に溶解させて、試料導入装置から数μL~数十μL程度をカラムに注入します。試料導入装置には手動式のマニュアルインジェクターと自動式のオートサンプラーがありますが、オートサンプラーが主流となっています。オートサンプラーには精度良く試料を注入することが求められますが、近年のLC-MSの普及に伴い、キャリーオーバーの極小化がポイントとなっています。
 カラム内で分離された各成分は、順次カラムから溶出し、検出器でその濃度が測定されます。代表的な検出器には、吸光光度検出器と蛍光検出器があります。吸光光度検出器は分析種に適した波長の紫外可視光(190nm~800nm)を照射し、その光吸収量を測定するものです。多くの有機化合物がこのような波長域で吸収をもつため、この検出器はHPLC で最も汎用的に使用されています。蛍光検出器は光照射により分析種を励起状態にして、再び基底状態に戻る際に発せられる蛍光を測定します。蛍光検出器は発光量を測定するため、一般に吸光光度検出器より高感度検出が可能であり、また分析種固有の励起波長と蛍光波長で測定するため高い検出選択性が得られるのが特徴です。反面、発蛍光性物質が限られますので、汎用性は低くなります。この他、示差屈折率検出器、電気化学検出器、電気伝導度検出器、蒸発光散乱検出器など様々な原理に基づく検出器があり、分析種や目的に応じて選択します。
 検出器により測定された信号は、データ処理装置に送られ、信号処理が行われて分離結果(クロマトグラムと呼ぶ)や定量計算値が表示されます。図2 にHPLC における分離の様子(模式図)を示します。

HPLCにおける分離の様子

図2 HPLCにおける分離の様子

3.高速液体クロマトグラフの応用

 HPLC は1960 年代終わりに誕生して以来、めざましい発展を遂げてきました。このようなHPLC 発展の要因としては、ハードウェアやカラムテクノロジーの進歩などに加えて、その応用性の広さが挙げられます。特に、医薬品、食品、生化学分野で扱う成分は、熱に不安定あるいは熱分解するため、GC では分析が困難な場合が多く、これらの分野を中心にHPLCが発展してきました。
 医薬品分野におけるHPLC の貢献は大きく、原料中不純物、製品中有効成分、代謝成分の分析など広範囲に用いられています。図3は水溶性ビタミン類8成分の分析例(クロマトグラム)です。ビタミン類は熱に不安定ですので、HPLC による分析が製品開発、品質管理に活躍しています。

水溶性ビタミン類の分析例

図3 水溶性ビタミン類の分析例

 食品分野においても、栄養成分、機能性成分、食品添加物、残留農薬、残留医薬品、かび毒などの分析に幅広く用いられています。図4はうなぎ蒲焼中合成抗菌剤(標準添加)の分析例です。エンロフロキサシンはわが国では養殖魚への使用が認められていない合成抗菌剤です。

うなぎ蒲焼中合成抗菌剤(標準添加)の分析例

図4 うなぎ蒲焼中合成抗菌剤(標準添加)の分析例

 生化学分野では、タンパク質や核酸関連物質をはじめとする生体由来成分などの分析に不可欠です。
 環境分野では、水道水、環境水、大気、土壌中の成分などが分析されます。図5は河川水中ビスフェノールA(標準添加)の分析例です。ビスフェノールA は内分泌系への影響が懸念される物質であり、微量分析が求められます。

河川水中ビスフェノールA(標準添加)の分析例

図5 河川水中ビスフェノールA(標準添加)の分析例

 一方、化学工業分野において、HPLC は高分子化合物の分析にも欠かせません。これはサイズ排除の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)という方法で、高分子化合物の分子量測定に用います。GPC は分子の大きさに基づく分離方法であり、試料を溶媒(例えばテトラヒドロフラン)に溶解して注入するだけで、簡便に合成樹脂などの分子量測定ができます。分子量測定は分子量既知の標準ポリマー(ポリスチレンなど)により校正曲線(溶出時間と分子量のグラフ)を作成し、データ処理装置のソフトウエアで各種平均分子量(数平均分子量、質量平均分子量など)を計算します。図6にGPC による分子量測定方法(模式図)を示します。

GPCによる分子量測定方法(模式図)

図6 GPCによる分子量測定方法(模式図)

 HPLC はこの他電子分野、エネルギー分野など幅広い分野で欠かせない分離分析装置あるいは分取装置として応用されています。

三上 博久
((株)島津製作所)

2013年2月21日 公開

印刷用PDFファイルへ(216.2kB)